25歳、側弯症を抱えながらプロを目指すバレエダンサーを前に、私が最初に考えたこと

投稿日:2026年1月3日 / 最終更新日:2026年1月3日

25歳、側弯症を抱えながらプロを目指すバレエダンサーを前に、私が最初に考えたこと

25歳。
国内外のバレエ団オーディションを受けている最中の、プロ志望のダンサー。

主訴は「右股関節の痛み」。
補足として「側弯症があります」。そう告げられました。

この時点で、私は「股関節だけの話では終わらない」と感じました。

股関節を見る前に、全身を見た理由

股関節の評価に入る前に、姿勢と側弯症を確認しました。
視診・触診で左右差が強く、ATR測定では胸椎15°。

あくまで推測ですが、コブ角は40°前後あっても不思議ではない。
このレベルであれば、病院では手術の話が出る可能性が高い

装具着用の話しはほぼ確実に出ているだろう——そう判断できる所見でした。

施術に入る前、頭をよぎったこと

治療家として、いろいろなことが頭をよぎりました。

  • このまま毎日ガンガン踊れば、側弯症は進む可能性がある
  • 最近は病院に行っていないと言うが、このカーブで本当に?
  • もしかすると側弯症の話に触れられたくないのかもしれない
  • すでに医師から「悪化」「装具」「手術」の話は十分聞いているはず

だからこそ、彼女は私から
「側弯症があるから股関節が痛いのはしょうがない」
「側弯症がひどいからバレエは危険」
この言葉を絶対に言われたくないのではないか——そう感じました。

表の主訴と、奥にあるニーズ

彼女の主訴は股関節痛です。
でも私には、もう一つのニーズが見えていました。

  • 側弯症がひどいことは分かっている
  • だからといって「しょうがない」で片付けないでほしい
  • 側弯症を理由に“股関節の痛み”を諦めたくない
  • 今はとにかく「踊れる状態」に戻したい

「股関節が痛い=踊れない」
それが彼女にとっての現実です。

私が最初に“側弯症から”入らなかった理由

側弯症の変形を整体だけで、しかも1回で変えることはできません。
彼女もそれを望んでいるわけではありません。

主訴は股関節痛。
今この瞬間に必要なのは、夢を続けるための“身体”を作ること。

だから私は、まず股関節の痛みを取り除くことに集中する。
そう判断しました。

ただし、側弯症が荷重や動作に影響している可能性は常に頭に置いたまま、施術を進める必要があるとも考えました。

側弯症のタイプと荷重の偏り

胸椎メインカーブの側弯症は、胸椎が右凸・右回旋になりやすい。
彼女もこのパターンでした。

胸椎が大きく右にカーブしていれば、重心は右に寄ります。
このタイプの側弯症で、左足にも均等に乗ろうとしても簡単にはできません。
物理的に右側に身体が傾いているからです。

話しはそれますが、バレエ指導の現場では、側弯症の理解が十分でないと
「骨盤が歪んでいる」「体幹が弱い」
といった指導になりやすいのも、よくある話です。

股関節痛の原因は「関節」か「筋肉」か

最初のスクリーニングはここです。

  • 股関節自体の問題なのか
  • 周囲筋の問題なのか

今回の症例は筋肉由来の要素が強いと判断しました。

右股関節周囲のどの筋が過緊張を起こしているかを絞り込み、
特に影響が大きかったのが大腿筋膜張筋。

手技と体外衝撃波を併用し、痛みは10→2まで軽減しました。

“側弯症の施術をしなかった”という選択

施術後、側弯症の評価結果を踏まえて、

「側弯症の影響で右股関節に荷重が集中している可能性がある」
という見立ては伝えました。

ただ、側弯症への介入そのものは、この日はあえて行いませんでした。

本人が今いちばん困っているのは、
「側弯症」ではなく「股関節が痛く踊れないこと」だからです。

次回以降の選択肢として、シュロス法や側弯症ピラティスなどの運動療法を提案し、この日は終了しました。

その後、彼女は来院しませんでした

2回目以降の来院はありませんでした。
その先の経過は分かりません。

痛みが落ち着いたのかもしれない。
あるいは、年齢的に考えても、最後のオーディション直前に“最後の砦”として来てくれただけなのかもしれない。

この症例が残したもの

治療家としての正論を優先するのか。
目の前のダンサーの時間を優先するのか。

この症例は、技術以前に「順番」を問われました。

私はこれからも、
正解を押し付けるのではなく、
その人の人生の中で必要な順番を見誤らない治療家でありたい。

そう思わされた症例でした。

著者プロフィール 伊集院 博

兵庫県神戸市生まれ。千葉県千葉市在住。2007年に千葉市中央区にて伊集院鍼灸整骨院を開業。現在は千葉県で2店舗の鍼灸整骨院の代表を務める。

『バレエ障害をゼロに!』をミッションに掲げ、ケガから最速でバレエ復帰できるように日々臨床に励んでいる。

バレエ動作修正やトレーニング指導にも定評があり、院内にマシンピラティススタジオを併設し、プロバレエダンサー、ジュニア、大人バレリーナを年間1,000人以上サポートしている。

著書『ゴールデンライン 美しい姿勢をつくる44のレッスン』

主な資格と実績

  • 伊集院鍼灸整骨院グループ代表
  • 柔道整復師(国家資格)
  • 鍼灸師(国家資格)
  • ケアマネージャー
  • シュロスベストプラクティスⓇ
    (側弯症運動療法の資格)
  • 側弯症ピラティスインストラクター
  • BESJ認定ピラティストレーナー
  • BTA認定バレエダンサートレーナー
  • ハワイ大学解剖実習終了
  • 治療家大學技術講師就任
ゴールデンライン 美しい姿勢をつくる44のレッスン

院長の伊集院が姿勢の問題を抱える女性に向けた著書

「ゴールデンライン 美しい姿勢をつくる44のレッスン」を出版。

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