投稿日:2025年7月14日 / 最終更新日:2025年7月14日
症例報告:左の足首の後ろ、三角骨の痛みでルルべができない
症例報告
戸畑心結さん 19歳 カナダ国立バレエ団所属
左の足首の後ろ、三角骨の痛みでルルべができない
●の部分に痛み
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症状
3年ほど前からルルべをすると左足の三角骨が痛く、左足のルルべが高く上がらないことが悩みで来院されました。
強い痛みがあったときはレッスンが出来ないほどで、3年間ずっと痛みと付き合いながらバレエをされていました。
初診時に左右差をチェックするために、片足ずつルルべを行ってもらったところ、痛みのため明らかに左足が上がらない状態。
この状況では踊りにかなり影響してしまうと容易に想像できる状態でした。
過去の治療歴
当院に来院される前には、スポーツの分野で有名な整形外科へ通院されていました。
整形外科でレントゲン検査にて有痛性三角骨障害との診断を受け、注射をして、その後シップを処方されたが症状に変化はありませんでした。
痛みの部位の確認
先ずはレントゲン画像と、患者さんの症状が一致しているかを確認するため触診を行いました。
有痛性三角骨障害の圧痛部位を確認するため、アキレス腱付着部の内側の奥に痛みがあるかを確認したところ、
強い痛みがあったため、病院の診断通りの症状があると判断しました。
三角骨の豆知識
三角骨とは足首の後方に存在する過剰骨と言って不要な骨のこと。
不要な骨なので全ての人に存在するわけではなく、文献によって異なりますが約5〜15%の人に存在すると言われています。
通常、三角骨が存在しても日常生活には問題がないのですが、
バレエ、ダンス、サッカー、水泳など足首を底屈する動きが多い競技では、足首後方の痛みを引き起こす原因となります。

バレエでの有痛性三角骨障害の重症度
当院ではバレエでの有痛性三角骨障害の重症度としての判断はこのように行っています。
1.ルルべで痛い(軽傷)
2.タンジュで痛い(中等傷)
3.歩行時に痛い(重症)
ルルべでの痛みに関しては荷重時で痛いかを確認。
タンジュでの痛みに関しては非荷重時で痛いかを確認。
歩行時での痛みに関しては日常生活で痛いかを確認。
今回の症例では、初診時はタンジュでも痛みがあり、過去に痛みが一番強いときは歩行時痛もあった。
有痛性三角骨障害の実態
多くの有痛性三角骨障害の場合、長母趾屈筋腱の腱鞘炎を引き起こしています。
ここで重要なことは、殆どの症例で三角骨自体に痛みがあることは少なく、三角骨があることによって長母趾屈筋腱の腱鞘炎を引き起こしているため痛みがあるということ。
当院では、先ずは長母趾屈筋腱の腱鞘炎の治療を行ってみて痛みの変化を見てみることにしています。
局所治療.1

長母趾屈筋のマッサージとストレッチ。
目的としてはシンプルに、硬くなっている長母趾屈筋を緩めること。
局所治療.2
アキレス腱の奥の脂肪帯のマッサージ。
アキレス腱の奥にはケーラーズファットパットという脂肪帯が存在します。
ケーラーズファットパットの役割はアキレス腱や長母趾屈筋腱の摩擦を軽減して滑らかに動かすこと。
アキレス腱炎や長母趾屈筋腱炎を引き起こしている場合、ケーラーズファットパットが硬くなっていることがよくあるため、
滑らかに動けるようにすることを目的に手技を行います。
局所治療.3

衝撃波治療(圧力波治療)。
衝撃波治療は少々痛みを伴う治療法だが、痛みを取ることに関して即効性が期待できます。
そして損傷している組織を再生させ、根本的な改善を見込める治療法。
衝撃波治療についてはこちらのページで詳しく述べているので参考にして下さい。
なぜ左足に痛みが起こったのかを考える
甲の出方に左右差があり悩んでいるバレエダンサーはとても多いです。
彼女の場合、左足の甲が出しづらいため、左足趾のIP関節を曲げることで、甲の出しづらさを補った使い方をしていました。
IP関節で曲げるとは分かりやすく言うと「グーになった足趾」のこと。
しかしこれは間違った使い方となります。

本来はMP関節を曲げることによって甲を出していくことが正解。
彼女もこのことは理解しているようでしたが中々現状、うまく使えていない状況でした。
グーになった足趾、これが問題なのは長母趾屈筋が使われすぎて硬くなること。
そのことによって足首を「ギューッ」と詰めた使い方をしてしまいます。
その結果、足首の後方、アキレス腱の奥の方でインピンジメントが起こり、長母趾屈筋腱の腱鞘炎を発症する大きな要因となります。
そして三角骨が存在する人では、更に長母趾屈筋腱の腱鞘炎を発症するリスクが上がってしまうことになります。
※インピンジメントとは関節が詰まることによって起こる挟み込み障害のこと。
負の連鎖に要注意
長母趾屈筋腱の腱鞘炎は負の連鎖を引き起こす引き金になるので要注意です。
少し専門的な話になってしまいますがご了承いただくことにして、
長母趾屈筋腱は足首の後ろを通っているためにこの部分が硬くなると、距骨の後方滑り運動が起こりづらくなり、足首の「背屈制限」が出やすくなります。
足首の背屈制限とは足首を反らしづらいこと、
バレエで言うところの「プリエが深く踏めないこと」
この状態でバレエをしていると今度はアキレス腱を痛めるリスクが高くなります。
要するに、
・ルルべでアキレス腱の奥が痛い(長母趾屈筋腱の腱鞘炎、有痛性三角骨障害)
・プリエでアキレス腱が痛い(アキレス腱炎、アキレス腱症)
このようなダブル疾患を患ってしまう症例もあります。
MP関節を曲げる運動指導
運動指導はシンプルにMP関節を屈曲(曲げる)させるエクササイズを行いました。
当然ですがこの際にはIP関節は伸展をキープ。(足趾は伸ばした状態)
1.スタートポジションは足関節フレックス
2.足関節底屈位(ドゥミポイント)
3.足関節底屈位(ドゥミポイント)をキープした状態でMP関節を屈曲
1⇒2⇒3を繰り返し行う。
MP関節の屈強は足裏筋の強化になるため、足裏筋を使っている感覚を確認しながら行います。
更に動きに慣れてきたらセラバンドなどで負荷を掛けながら行うと筋力強化になります。
まとめ
有痛性三角骨障害や長母趾屈筋腱炎など、足関節後方のインピンジメント障害は、カラダの使い方である程度防ぐことができます。
今回のクライアントさんのようにレベルが高いダンサーでも、足趾(IP関節)を伸ばした状態でMP関節を曲げることが苦手なことがあり、
それは足裏筋を使うことが苦手ということを意味します。
そして私の臨床経験上、プロではない一般のバレエダンサーの多くは、足趾(IP関節)が曲がって「足趾がグー」の状態になっています。
今回のブログで、それは甲を高く見せるための間違ったテクニックであることを理解していただけたのではと思います。
正しくカラダを使うことで、ケガをしない強い脚を作っていきましょう!
今回の症例の治療結果
初回の治療前は痛くてルルべが健側(痛くない側の脚)の半分くらいしか上がらなかったのが、
治療後は少し痛いが左右同じくらいの高さのルルべができるようになりました。
初回の治療前、治療後の痛みの変化を数値で表すと、
10痛かったのが、2まで減少しました。
合計7回の治療を行って、6回目くらいからは、治療前の状態で痛みはゼロの状態になりました。
「私のゴットハンド、最高です!」
戸畑心結さんから頂いた言葉です。
ありがとうございます!
今後のご活躍応援しております!
戸畑心結さんからの感想はこちら
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著者プロフィール 伊集院 博
兵庫県神戸市生まれ。千葉県千葉市在住。2007年に千葉市中央区にて伊集院鍼灸整骨院を開業。現在は千葉県で2店舗の鍼灸整骨院の代表を務める。
『バレエ障害をゼロに!』をミッションに掲げ、ケガから最速でバレエ復帰できるように日々臨床に励んでいる。
バレエ動作修正やトレーニング指導にも定評があり、院内にマシンピラティススタジオを併設し、プロバレエダンサー、ジュニア、大人バレリーナを年間1,000人以上サポートしている。
著書『ゴールデンライン 美しい姿勢をつくる44のレッスン』
主な資格と実績
- 伊集院鍼灸整骨院グループ代表
- 柔道整復師(国家資格)
- 鍼灸師(国家資格)
- BESJ認定ピラティストレーナー
- BTA認定バレエダンサートレーナー
- ハワイ大学解剖実習終了
- 治療家大學技術講師就任
