バレエの先生方へ|生徒のケガはなぜ起きるのか ― 予防と復帰設計の視点から ―

投稿日:2026年2月26日 / 最終更新日:2026年2月27日

バレエの先生方へ|生徒のケガはなぜ起きるのか ― 予防と復帰設計の視点から ―

生徒がケガをした後、その対応まで設計できていますか?

成長期のバレエ指導において、股関節や足首、腰のケガは避けたい課題の一つです。

とくに子どもの身体はまだ完成しておらず、大人と同じ前提では考えられません。

予防を徹底していても起きてしまう現実に、向き合っておられる先生方へ。

それは決して、先生の努力不足ではありません。

身体構造という条件が、大きく影響しているケースも少なくないのです。

日々、生徒の安全を考えながら指導を重ねていることと思います。

ウォームアップの工夫、負荷の調整、成長期への配慮。

「安全」という視点を持つ先生は、確実に増えています。

それでも、ケガは起きます。

・股関節の前が痛い

・足首の後ろが痛い

・アラベスクで腰が痛い

予防しているのに、なぜ起きるのか。

そこに、簡単には言葉にできない葛藤があるのではないでしょうか。

股関節前面痛は、努力不足ではありません

バレエは、高い可動域と強い負荷を前提とする芸術です。

しかも多くは、骨や筋肉が成長途中の年代と重なります。

たとえばアンディオール。

アンディオール可動域には明確な個人差があります。

その大きな部分は骨格によるものです。

寛骨臼の向き、大腿骨の前捻角、股関節の形状。

これらは努力で変えられるものではありません。

とくに子どもの骨格は発達段階にあり、個人差が大きく現れます。

アンディオール可動域が十分でない状態で足を上げようとすると、

本来主動として使いたい腸腰筋や内転筋がうまく機能しにくくなります。

その代償として、股関節前面の筋群(大腿直筋や大腿筋膜張筋)に負荷が集中しやすくなり、

「前ももの付け根が痛い」という訴えにつながります。

これは、指導が間違っているという話ではありません。

努力不足でもありません。

身体条件と負荷条件が重なった結果です。

当院で最も多い症例が、この股関節前面の炎症です。

予防を徹底されているスタジオの生徒さんでも起きています。

股関節前面痛の評価と再発予防の考え方については、こちらで詳しく解説しています。

👉 成長期バレエダンサーの股関節障害について

足首の後ろが痛い問題

次に多いのが、足首後方の痛みです。

足関節の底屈可動域にも個人差があります。

可動域が十分でない場合や、甲をもっと出そうと頑張るあまりに、

足趾で無理に底屈を作ろうとすることがあります。

その代償として足首後方に過度な圧縮ストレスがかかり、

いわゆる足関節後方インピンジメント障害につながることがあります。

さらに、三角骨の有無やその大きさ。

これは努力では変えられない、解剖学的な条件です。

これもまた、指導の問題とは限りません。

努力不足でもありません。

構造の問題が背景にあります。

足関節後方インピンジメントや三角骨についての詳細はこちら。

👉 三角骨とバレエ障害について

子どもの腰痛という、もう一つの問題

小中学生で増えているのが、

「アラベスクで腰が痛い」「後ろに反ると痛い」という症状です。

このタイプの腰痛の中には、

腰椎分離症や疲労骨折の初期段階が隠れていることがあります。

早期に気づけば保存的対応で復帰できるケースもありますが、見逃すと長期離脱につながることもあります。

多くのケースで見られるのは、

・股関節前面の硬さ

・骨盤前傾の強さ

・胸椎伸展の可動域不足

・肩の過緊張

結果として腰椎で代償して“反っている”状態です。

これもまた、努力不足だけではなく骨格の問題も隠れています。

指導の問題とは限りません。

成長期の骨は、まだ完成していないのです。

“反ると痛い”というサインを、軽い成長痛で片付けないこと。

そこに早期評価の意味があります。

本当に悩ましいのは「ケガが起きた後」

問題は、ケガが起きた後です。

・どの程度レッスンを続けさせるのか

・完全に休ませるべきか

・いつから復帰させるのか

・親にどう説明するのか

・発表会に間に合うのか

・コンクール前ならどう判断するのか

多くの先生方が、ここで深く悩まれているのではないでしょうか。

そして、

「痛みが軽減したから復帰」

「炎症が引いたから大丈夫」

この判断で戻した結果、

同じ部位を繰り返してしまうケースを、私は数多く見てきました。

骨格は変えられません。

しかし、使い方は変えられます。

たとえば、

・膝下で作る過剰なアンディオール

・土踏まずの低下による外反母趾傾向

・足趾を握り込む代償動作

・骨盤前傾のコントロール不足

・過剰な反張膝

・左右の荷重の偏り

これらが重なり、同じ部位に負担が集中します。

炎症だけを抑えても、

負荷構造が変わらなければ、再発は防げません。

治療とは、炎症を抑えることだけではありません。

復帰までの設計を含めて、初めて治療です。

予防は先生の領域。

評価と復帰設計は治療家の領域。

対立ではなく、役割分担です。

先生を守るという視点

多くのケースで、それは「先生のせい」ではありません。

医学的に見れば、

指導以前に、身体構造という条件が大きく影響しているケースは少なくありません。

そして、この身体構造の個人差こそが、

バレエという芸術の難しさであり、最大の特徴でもあります。

治療家という立場から客観的な評価が入ることで、

議論は責任論ではなく、構造の理解へと変わります。

それは、生徒を守るだけでなく、

先生を守ることにもつながります。

当院では、指導方針を否定する形で保護者様へ説明を行うことはありません。

あくまで身体構造と負荷条件という医学的視点から整理し、
先生と同じ方向を向いたサポートを心がけています。

我慢を教えるのか、戻り方を教えるのか

バレエの世界には、「痛みを超える強さ」という価値観があります。

しかし私が臨床で多く見るのは、

痛みを抱えながら、それを言葉にできない子どもたちです。

先生が怖いからではありません。

「迷惑をかけたくない」

「出られなくなるのが怖い」

「もっと頑張れると思われたい」

そうした思いが、子ども自身の中にあるのです。

だから黙ってしまう。

我慢できることと、我慢すべきことは同じではありません。

我慢を教えるのではなく、

整えて戻る方法を教える。

それが、これからの時代の強さではないでしょうか。

最後に

予防はとても大切です。

しかし、予防だけでは足りない瞬間があります。

ケガが起きた後の設計まで含めて、生徒の未来を考える。

先生と治療家は対立する存在ではありません。

同じ方向を向いています。

目的はただ一つ。

長く踊れる身体を育てること。

痛みを隠す強さではなく、

整えて再び立つ力を育てること。

その積み重ねが、

バレエという芸術を、より持続可能なものにしていくと信じています。

先生方と同じ方向を向きながら、

生徒たちの未来を支える一助となれれば幸いです。

著者プロフィール 伊集院 博

兵庫県神戸市生まれ。千葉県千葉市在住。2007年に千葉市中央区にて伊集院鍼灸整骨院を開業。現在は千葉県で2店舗の鍼灸整骨院の代表を務める。

『バレエ障害をゼロに!』をミッションに掲げ、ケガから最速でバレエ復帰できるように日々臨床に励んでいる。

バレエ動作修正やトレーニング指導にも定評があり、院内にマシンピラティススタジオを併設し、プロバレエダンサー、ジュニア、大人バレリーナを年間1,000人以上サポートしている。

著書『ゴールデンライン 美しい姿勢をつくる44のレッスン』

主な資格と実績

  • 伊集院鍼灸整骨院グループ代表
  • 柔道整復師(国家資格)
  • 鍼灸師(国家資格)
  • ケアマネージャー
  • シュロスベストプラクティスⓇ
    (側弯症運動療法の資格)
  • 側弯症ピラティスインストラクター
  • BESJ認定ピラティストレーナー
  • BTA認定バレエダンサートレーナー
  • ハワイ大学解剖実習終了
  • 治療家大學技術講師就任
ゴールデンライン 美しい姿勢をつくる44のレッスン

院長の伊集院が姿勢の問題を抱える女性に向けた著書

「ゴールデンライン 美しい姿勢をつくる44のレッスン」を出版。

治療法

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