バレエの下肢障害 グロインペイン症候群(鼡径部痛症候群)

投稿:2022.05.18 / 16:17 

バレエの下肢障害 グロインペイン症候群(鼡径部痛症候群)

グロインペイン症候群の症状

このような症状があると、グロインペイン症候群の可能性があります。

  • 股関節や鼡径部周囲の痛みが慢性化している
  • グランバットマンで股関節や鼡径部周囲が痛い
  • グランプリエで股関節や鼡径部周囲が痛い
  • 開脚ストレッチで股関節や鼡径部周囲が痛い
  • 日常生活では痛みはないが、レッスンをすると痛む

鼡径部痛の分類

触診や筋肉の抵抗運動により、以下のように鼡径部痛を分類します。

  1. 内転筋関連の鼡径部痛
  2. 腸腰筋関連の鼡径部痛
  3. 鼡径部関連の鼡径部痛
  4. 恥骨関連の鼡径部痛
  5. 股関節関連の鼡径部痛

鼡径部痛の病因

上記5つの分類の鼡径部痛には、主に2つの病因が考えられます。

股関節インピンジメント障害(FAI)
股関節への圧縮応力により発症します。

●グロインペイン症候群(鼡径部痛症候群)
鼡径部への伸長刺激により発症します。

グロインペイン症候群(鼡径部痛症候群)とは

グロインペイン症候群は、鼡径部痛症候群、グロインペインアスリート、スポーツヘルニアなど様々な名称で表現されますが、同意語と認識して大丈夫です。

グロインペイン症候群(鼡径部痛症候群)はスポーツ選手、中でもサッカー選手に多く、捻り動作、方向転換、ダッシュ、キック動作などの反復により鼡径部の緊張が高まると鼡径部に痛みを発症します。

グロインペイン症候群における鼡径部の緊張が高まる状態の代表例は、キック動作のような鼡径部に伸長刺激が加わることを指します。

伸長刺激とはキック動作を分析してみると分かりやすいと思います。
キック動作に入ると、まずは下肢を外転外旋しながら大きく後方へ引きます。その際に内転筋群が強力に下方へ引き下げられます。そして上半身は腹筋群を中心に上方へ引き上げられます。
その結果、鼡径部には強力な引っ張りのストレスがかかり痛みを生じます。

グロインペイン症候群の特徴

グロインペイン症候群の主症状は鼡径部痛ですが、痛みの出現に特徴があります。
それは多くの症例で、スポーツをしているときは痛みが出現するが、日常生活では痛みが出ないということです。

ですから臨床の現場で病態を再現することが難しいため、鼡径部のどの部位を負傷しているのかの診断が難しく、丁寧な問診と触診のスキルが必要になると考えます。

グロインペイン症候群の触診

鼡径部のどこの部位を負傷しているかを触診により評価していきます。触診は、以下の可能性の考えられる様々な箇所を行います。

恥骨結節部、深鼡径輪周囲、浅鼡径輪周囲、長内転筋起始部、神経絞扼による放散する鼡径部痛の有無、大腿直筋起始部、腸腰筋の恥骨付近、iliocapsularis(腸骨関節包筋)、恥骨筋起始部、縫工筋起始部、腹直筋起始部、腸恥滑液包部、大転子滑液包部、AIISの剥離骨折の可能性の有無など。

骨盤の後傾が不足している

グロインペイン症候群の症例では、健常者と比べて骨盤の後傾が不足していという調査があります。

そこで、股関節を屈曲する際の股関節と骨盤体(腰椎と骨盤)の運動比率を説明します。
若年層は「股関節:骨盤体 = 3:1」に対して、中高年層では「股関節:骨盤体 = 5:1」となります。
つまり加齢とともに腰椎と骨盤の動きが悪くなり、股関節の動きに依存していることになります。

加齢の問題だけではなく、アスリートとしても言えることは、競技レベルの高い人ほど体幹のブレが少なく、骨盤体を後傾しながら股関節を動かしていることに対して、競技初心者の人は骨盤体の後傾が不足して股関節の動きに依存している傾向にあります。

骨盤帯の後傾方向へのモビリティ(可動性)を向上させることが、鼡径部周辺の筋肉、腱、軟部組織の負担を軽減させることができ、症状改善に繋がるのではないかと考えます。

バレエでの原因① 過度な骨盤前傾と反り腰

グロインペイン症候群は、鼡径部への伸長刺激により発症します。
骨盤の前傾が強く、反り腰の傾向にあると、鼡径部へ常に伸長刺激が加わり続けます。

鼡径部への伸長刺激の原因となる不良姿勢やバレエ動作は、以下が考えられます。

  • 反り腰で固まっている
  • 骨盤が過度な前傾位で固まっている
  • 骨盤前傾や反り腰でのアンディオール
  • 骨盤前傾や反り腰でのアラセゴン
  • 骨盤前傾や反り腰でのアラベスク
  • 前もも、内ももの過度なストレッチ

バレエでの原因② 腹圧のコントロール不足

バレエは競技特性として、常に腹圧を高めて身体を引き上げる動作をしています。
腹圧とは、腹部インナーユニット(横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群)から形成される腹腔内圧のことです。

腹圧を高めたり抜いたりすることで、肋骨、背骨、骨盤のモビリティ(可動性)を出すことができ、前述したように骨盤後傾方向への骨盤のモビリティも向上します。

バレエをしている方は、腹圧を高め身体を引き上げることを意識しすぎるがために、腹圧を抜くことが苦手なことが多いです。
このように腹圧のコントロールができなくなると、腰椎と骨盤のモビリティ(可動性)が悪くなりグロインペイン症候群の原因に繋がると考えます。

一般的な病院での治療法

MRI、超音波、触診により診断し、痛み止めの服用、局所への注射、物理療法、筋力トレーニングなどの保存療法で様子を見るケースが多いです。

多くの症例は保存療法で改善に向かいますが、保存療法での経過が悪い場合は手術の可能性も出てきます。

当院での治療方法

診断について

グロインペイン症候群は画像診断でわからないケースがとても多いですが、類似する症状で病態が骨、関節唇、関節軟骨、腫瘍などの可能性もありますので、まずは病院を受診されて画像診断を受けることをお勧めいたします。

その後、当院で保存療法を希望される場合は施術可能となります。

疼痛部位に対して

当院では、股関節周囲の筋肉の緊張や癒着、滑液包の炎症、脂肪組織の瘢痕化などがグロインペイン症候群の原因となっている可能性があると考えております。

施術のターゲットとなりえる部位へ手技療法、衝撃波(圧力波)治療器、ラジオ波治療器、スーパーライザー光線治療器、鍼治療などを用いてアプローチしていきます。

※施術内容は患者様とカウンセリングをした上で決定していきます。一方的に施術内容を決めることはありませんのでご安心ください。
※鍼治療は希望者のみ行いますのでご安心ください。

骨盤に対して

アスリートやバレエダンサーは重心が前方へ移動している姿勢になりやすく、骨盤が前傾位で固まってしまい骨盤体(腰椎と骨盤)を後傾することが苦手な人が多いです。

骨盤帯(腰椎と骨盤)の後傾方向へのモビリティ(可動性)を向上させていくことで、腰部の筋肉や筋膜への負荷を軽減させることができると考えております。
そして、骨盤の捻れや開きの左右差を確認し、手技療法により骨盤(仙腸関節)を矯正します。

全身へのアプローチに対して

股関節に負荷がかかりすぎているということは、その背景には体の様々な箇所にエラー動作や歪みが隠れています。

例えば、背骨の可動域が少ない、骨盤の前傾が強い、膝の捻れがある、足首の捻れがある、偏平足があるなどです。
それらを整体、矯正手技にて改善することで、股関節に過剰にかかっている負荷を軽減させることができると考えます。

体幹の安定に対して

足を上げる動作など下肢を動かす際には、下肢の筋肉よりも体幹の筋肉(インナーユニット)が先行して働くことが正しい身体の使い方です。
インナーユニットとは腹横筋、横隔膜、骨盤底筋群、多裂筋のことを言います。

体幹の筋肉を先に収縮させ体幹を安定させてから下肢の筋肉を使った方が、体のブレが小さく運動効率がよいためです。
例えば股関節を屈曲する動き、バレエ動作でたとえるとドゥバンへ足を上げるときは、以下のような順序で働くことが理想的です。

【体幹の筋肉(インナーユニット)⇒ 大腰筋(腸腰筋、腸骨筋) ⇒ 大腿直筋】

ですが、骨盤帯(腰椎、骨盤)や股関節に問題を抱えている多くの方は体幹の筋肉(インナーユニット)が先行して働くことができず、大腿直筋や大腰筋(腸腰筋、腸骨筋)が先行して働いていることがあります。
このようになってしまうと、骨盤帯(腰椎、骨盤)や股関節への負荷が強くなってしまい、ケガに繋がりやすくなります。

当院では、体幹の安定性とモビリティ(可動性)を向上していくために、バレエピラティスを行っています。

保存療法の可能性

グロインペイン症候群の多くは筋肉の緊張や癒着、滑液包の炎症、脂肪組織の瘢痕化が原因であることから、多くの症例は保存療法で改善すると考えます。

そしてバレエでの不良動作を改善していくこと、体幹の安定性とモビリティ(可動性)を向上していくことも根本改善に繋がっていくと考えます。
詳しくはそれぞれの治療ページをご覧ください。

クライアント様とカウンセリングを行いながら、以下の施術方法を組み合わせ、最善の方法を選択し、早期回復を目指します。

治療法

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